
スピカ
星の色は、その星の表面温度の違いによるものです。表面温度が低い星は波長の長い赤い光が強く、温度が高くなると波長の短い青い光が強くなっていきます。つまり、青色や白色の星は温度が高く、オレンジ色や赤色の星は温度が低いことがわかります。
地球から観測できる1等星以上の星で最も温度が高いのは青白く輝くスピカ(おとめ座)で、20,000度を超えています。スピカは肉眼では1つの星に見えますが、複数の星からなる連星系で、このうち明るさ1.3等の主星と4.5等の伴星は、とても近い距離をわずか4日ほどで回りあっているため、互いの重力で楕円体形に歪んでいるのだそうです。
アルクトゥールス
うしかい座の1等星、アルクトゥールスのことをハワイ語では「ホクレア」と呼びます。これには"喜びの星"という意味があります。
ホクレアは、古代ポリネシアの人々がハワイの真上を通る天頂星として目印にした星です。ポリネシアでは、明るい星の下には島があると信じられていました。
羅針盤も海図もなかった時代、人々は、天体の動きや風、波、鳥など自然からのサインを読み取りながら航路を定めました。自然から得られる情報のみを頼りに、何十日もかけて大海原を渡り、ホクレアが天頂に輝く島ハワイを探し当てた人々にとって、ホクレアはまさに幸せの星であったことでしょう。
春の大曲線
北斗七星を見たことがありますか?北斗七星には明るい1等星がないので、都会の空では見つけるのが難しいかもしれません。そんなときは、春の大曲線を逆にたどってみましょう。春の夜空で輝く2つの明るい1等星、青白いスピカ(おとめ座)から、オレンジ色のアルクトゥールス(うしかい座)に向かって伸ばした線を北に大きくカーブさせると、その先に7つの星がひしゃくの形に並んだ北斗七星があります。
北斗七星のひしゃくの先の2つの星を線で結び、ひしゃくが開いている方に向かって5倍ほど伸ばすと、2等星の明るさの星が見つかります。北を示す目印になる星、それが北極星です。
北極星
天の北極近くで輝く2等星の明るさの星が北極星です。北極星は、北半球で北を指し示す星として、昔から船乗りや旅人を導く重要な星として知られていました。
北極星の地平線からの高さは、観測している場所の緯度とほぼ同じです。日本は、およそ北緯20度から北緯45度の間にありますので、日本だけでも緯度の差は25度ほどになります。
日本より北に位置する国ほど北極星の高度は高くなり、北極点では北極星が真上に見えることになります。
いろいろな場所に出かけたとき、北極星を探してみませんか?今いる場所の緯度を知ることができるとともに、地球の丸さを感じることができるかもしれません。
さそり座・てんびん座
てんびん座は黄道十二星座のひとつとしてよく知られていますが、もともとはさそり座の一部だったようです。古代ギリシャ時代には、この領域には甲殻類の触肢(ハサミ)を意味する名前でよばれていました。今でも、てんびん座にはさそり座由来の名前がつけられている星があります。α星の固有名は「ズベン・エル・ゲヌビ」でアラビア語で「南の爪」を意味します。β星は「ズベン・エス・カマリ(北の爪)」、γ星は「ズベン・エル・ハクラビ(さそりの爪)」。古代ギリシャ時代のさそり座は、今よりも大きく長いハサミをもった姿で描かれていたようです。その後、てんびん座がさそり座から独立したのは紀元前1世紀頃と考えられています。
夏の大三角
夏の大三角の3つの星のうち、最も明るい星がベガ(こと座)で2番目に明るい星がアルタイル(わし座)です。この2つの星は日本では、七夕の織姫星と彦星としても知られています。
七夕伝説では、織姫と彦星は1年に1度だけ逢うことを許されていますが、実際には2つの星の間の距離は14.5光年ほどありますので、たとえ光速で近づいても逢うまでに7年以上かかります。しかし星の一生はとても長く、この2つの星の寿命は共に約10億年ありますので、これを人の寿命を100年として換算すると、2人は3.2秒に1回逢っていることになります。
ところが、その面会時間は8.6ミリ秒。言葉を交わす時間もなさそうです。
天の川
夏の天の川が最も濃く見えるのは、銀河の中心方向を見ているためです。観測により、銀河系(天の川銀河)は、中心部の星々が細長い楕円体状に分布する棒渦巻銀河であることが分かっています。直径は約10万光年で、少なくとも2,000億個以上の星があると言われており、中心にいくほど星の数は増えます。
私たちの太陽系は、中心から少し離れた位置にあります。いて座の方向、26,000光年ほど先にある銀河中心には強い電波源が観測されており、超大質量ブラックホールの存在が予測されていました。そして、2022年には、観測史上2例目となるブラックホールの直接観測に成功したことが発表されました。
肉眼で見える星の数
星にはいろいろな明るさがありますが、広大な宇宙で果てしなく遠くにある星はどんなに明るくても見ることができません。私たちは一体どれくらいの星を見ることができるのでしょうか。
視力の良い人が、雲や街明かりのない条件の良い空で肉眼で見ることができる最も暗い星が6等星とされています。6等星以上の星の数は全部で8,600個ほどありますが、その半分は常に地平線の下に隠れていますので、一度に見ることができる星の数は4,300個となります。実際の空では大気の影響等により地平線近くの星は見えづらくなりますので、結果的には3,000個ほどの星を見ることができることになりそうです。
秋の四辺形
秋の星空散歩の目印として挙げられる「秋の四辺形」。2等星3つと3等星1つで構成されており、夏の大三角や冬の大三角のような明るい1等星がありませんが、明るい星の少ない秋の夜空では四角い星の並びが意外に目立ちます。
星座絵では、ペガスス座の腹部にあたりますので、「ペガススの四辺形」とよばれることもあります。神話では、勇者ペルセウスを乗せてきた馬と紹介されることがありますが、これは古代ギリシア・ローマ時代からの伝承ではなく、後の時代の創作のようです。
四辺形の西の辺を地平線に伸ばしたところには、秋の星空領域でただ1つの1等星であるフォーマルハウト(みなみのうお座)が輝いています。
アンドロメダ座 ~ アンドロメダ銀河
秋の四辺形の4つの星の中で最も明るく輝くアルフェラッツ。その意味は「馬」ですが、ペガスス座の星ではありません。1922年のIAU(国際天文学連合)会議で、1つの星は1つの星座に属することが決められ、アルフェラッツはアンドロメダ座の星となりました。星座絵では、古代エチオピア王家の王女、アンドロメダの姿が描かれています。
アンドロメダ姫の腰のあたりにぼんやりと見えている天体がアンドロメダ銀河(M31)です。太陽系から250万光年以上も遠くにある渦巻き銀河で、地球から肉眼で観察できる最も遠くにある天体です。遠い未来、私たちの銀河と衝突合体して1つの銀河になるといわれています。
アルゴル
明るさが変化する星のことを変光星といいます。勇者ペルセウスが手に持つ怪物メドゥーサの首にあたる2等星アルゴルは「食変光星」に分類される変光星で、連星系の星がお互いの前を横切ることで、地球からの見かけの明るさが変化するものです。アルゴルは、69時間弱の周期で2等星から3等星の幅で明るさが変化します。
古代アラビアの人々は、この星が数日おきに明るさを変えていくことに気づき、とても不気味な星として記録していました。アルゴルとはアラビア語で「グールの頭」を意味します。グールとは屍を食べる悪魔のこと。古代アラビア人には、変光の仕組みが見えていたかのようです。
ミラ
くじら座の胸に位置するミラは「脈動変光星」に分類される変光星です。約332日の周期で膨張と収縮を繰り返し、明るさが大きく変化します。最も明るい時は2等星ですが、暗い時は10等星になるため肉眼では観察することができません。明るく見えていた星がいつの間にか消えてしまったように見えることから、ラテン語で「不思議なもの」を意味するミラとよばれるようになりました。英語で奇跡や脅威を意味するミラクルと同じ語源です。
年老いた赤色巨星ミラが約11か月の周期で明るさを変えていく様は、化けクジラの心臓でゆっくりと波打つ静かな鼓動のようにも思えます。
すばる
星座絵では、おうし座の肩に位置する散開星団M45(プレアデス星団)は、日本では「すばる」の名で親しまれています。古く、「古事記」では、勾玉を連ねた玉飾り=美須麻流之珠(みすまるのたま)にも例えられ、これが転じて「統ばる(すばる)」になったと考えられています。
六連星(むつらぼし)と呼んでいる地域もあるように、肉眼では6つほどの星が見えていますが、望遠鏡を使うと100個以上の星が集まっていることがわかります。
約6,000万から1億歳の比較的若い星の集団であると言われますが、すばるのような青白い星は寿命が短く、あと1,000万年ほどで消滅するのではとの予測もあります。
オリオン座 ~ オリオン星雲
オリオン座には明るい星が多く、星の並びにも特徴があります。日本では「鼓星(つづみぼし)」や「括れ星(くびれぼし)」ともよばれてきました。天の赤道付近に位置する星座であるため、世界中のほとんどの場所から見ることができます。
星座絵で狩人オリオンが腰に下げているナイフにあたるのが「小三ツ星」で、ここにあるのがオリオン大星雲です。空の条件が良ければ肉眼でも見える散光星雲で、双眼鏡でも淡い光の広がりを確認することができます。中央付近にはトラペジウムと呼ばれる散開星団があり、この星団の星々が生み出す大きなエネルギーにより星雲全体が明るく照らされています。
冬のダイヤモンド ~ いっかくじゅう座のばら星雲
冬の星座の領域には1等星以上の星が多く、シリウス(おおいぬ座)、プロキオン(こいぬ座)、ベテルギウス(オリオン座)を結んだ形が冬の大三角です。また、シリウス(おおいぬ座)、プロキオン(こいぬ座)、ポルックス(ふたご座)、カペラ(ぎょしゃ座)、アルデバラン(おうし座)、リゲル(オリオン座)を結んだ大きな六角形は「冬のダイヤモンド」ともよばれています。
この領域にあるのが「ばら星雲」で、望遠鏡を使って写真に撮ると、真っ赤な花びらを広げたバラの花のような散光星雲姿が浮かび上がってきます。真紅のバラを添えた特大のダイヤモンド。冬の夜空はなんともゴージャスですね。
ふたご座流星群
毎年ほぼ同じ時期に、夜空のある一点から放射状に流れるように見える流れ星の一群のことを流星群といいます。ふたご座流星群は、その名の通り放射点がふたご座にあり、毎年12月14日ごろに極大を迎えます。冬は夜が長く、また、放射点が一晩中地平線上にあり深夜に最も高く上ることから、寒いことを除けば三大流星群の中では最も観測に適した流星群と言えるでしょう。
ふたご座流星群の母天体とされている小惑星ファエトンは、彗星としての活動を終えた天体であると言われていましたが、近日点付近ではわずかに塵を放出して彗星としての活動を続けていることが確認されていることから、現在は活動的⼩惑星に分類されています。
月
月は地球との潮汐力のために自転周期と公転周期が固定され、地球からは常に月の同じ面が見えています。では、月から地球を見るとどのように見えるでしょう。月の表側では、時間がたっても地球は空のほぼ同じ場所に浮いたままです。一方、月の裏側からは地球を見ることはできません。日本の月周回衛星「かぐや」が撮影して有名になった「地球の出」は、かぐやが月の裏側から表側に移動する時に撮影されたものです。
火星
火星は赤い惑星として知られています。表面が酸化鉄を多く含んだ赤っぽい土や岩で覆われており、それが火星の大気を通して地球から見えているのです。この酸化鉄を含む細かいチリは風によって舞い上がり、太陽光の中の赤い色を強く散乱します。このため火星で見上げる空は一面オレンジ色です。ですが、朝夕は、昼間よりも太陽光がチリの大気中を通ってくる距離が長くなり、赤や緑の光はほとんど散乱されてしまいます。こうして比較的散乱されにくい青い光が多く目に届くことになり、火星では太陽の周りが青く見えるのです。
土星
土星の衛星の中で6番目に大きいエンケラドス。表面は20kmを超える厚い氷に覆われていますが、その下には熱水噴出孔をもつ海が存在すると言われており、その噴出した氷粒子からは高濃度のリン酸が発見されました。リンはDNAなどを作る重要な元素で、リンが濃集する環境が地球以外で発見されたのは初めてです。そのためエンケラドスは「太陽系で微生物が生息する可能性の最も高い場所」として注目されています。